今日は、生まれて初めて「歯科救急」というのに行きました。
毎週土曜日は、我が家は一家揃って40km離れたニュルンベルク(Nuernberg)の日本語補習校に出かける日。子どもが勉強している間に親は米買ったり、豆腐買ったりと、村では買えないような食材を確保。
そういうわけで土曜日はそれなりに疲れる日でもあります。
今年は、回り持ちのいわゆるPTAみたいなのの担当なので、子どもの授業終了後に年度末・新年度に向けての打ち合わせなどをして、そうこうしているうちに午後になり帰宅。
今日は天気も悪く(今年は暖冬で雪も降らずに、風雨ばっかり)、子ども達は家の中で日本から送ってもらったTV番組のDVDを見たりして過ごすけれども、それなりに疲れているせいか、ケンカも多い。
夕方になり、食事の時間が近づいてきたので、散らかしていたカバン類とかをそろそろ片づけることになるが、例によって揉み合いつつ片づけが進む。
そういうしている内に、突然一番下のが泣き出す。どうも姉ちゃんが頭を上げた拍子に、頭が顎にあたったらしい。さらに、何か口の中に違和感があったらしく、鏡を見に行って帰ってきて、大声で「何か変になった〜」と泣きながら母親に訴えにいく。息子の口の中を見た妻が慌てて僕を呼ぶので見に行くと、下の左前歯の表面下半分が薄く剥がれてしまっており、さらに下の方はまだ歯肉の中に埋まっているので、歯が前後に裂けたようになっている。血は出ていないし、とりあえず痛いわけではないらしい。剥がれた方はぐらぐらだが、元々の歯の方は歯並びも普通だし、ぐらついてもいない。
一番上の息子が、やっと今頃騒ぎに気付いて「なになに?なにがおこったの?」とやって来るが、母親から「見せもんじゃないから」と一喝されて、ふくれる。
真ん中の娘は、自分が怒られるのではないかと警戒、さかんに自己責任であることをアピール(<−このあたりが非常にドイツ的になっている・笑)。
とりあえず、血も出ていないし痛がってもいないし、ドイツは土日には身動きがとれないので、月曜の朝一番で歯医者に連れて行くことにしようと、妻と相談。夕食になる。
ところが夕食が始まると、当の息子が「うまく食べられない」と訴え始める。「少しだと食べられるけど、沢山だと痛い」らしい。どうも、食べようと顎を嚙み合わせると、上の前歯が剥がれたところに当たるので、痛いらしい。う〜ん困ったな〜。この夕食を入れて、月曜日の朝まであと5回も食事があるしな・・・、と考えていると、妻は既にこの時点でかなり心配になっている。
現在住んでいる村は、各週で村の諸連絡(ゴミの日とか)のための広報を発行しており、そこには時間外の薬局当番(Apothekendienst)と土日の救急歯科当番(Zahnaerztlicher Notfalldienst)の一覧が掲載されている(ちなみに通常の医者の救急当番については、診療科別に別途電話サービスに問い合わせることになっているので載っていない)。
「救急に連れて行った方がいいかな」と妻。「歯が折れたって何て言えばいいのかな?abgebrochen?」と妻が言うと、横で当の息子が「Ja.」と言う。はいはい。そうですか、そうですか。
一応、この週末の担当医を確認してみる。担当は、自動車で10分ぐらいのLichtinauという2つ隣の村の歯科になっている。そんな村の歯科医なんて当然行ったことなんか無い。「でも今日はLichtnauだよ・・・」と僕。う〜ん、別に通常は痛がってないし、月曜日までなんとかだましだまし持たせられないかな・・・と思っていると妻が「今なら間に合うわね」と言うので、もう一度広報を見ると、週末の診察時間は、朝10-12時、夜18-19時と書いてある。時計を見ると18時半。妻を見ると、もう目は完全に「連・れ・て・行・け」と言っている。
「じゃあ、電話してみましょう。」と、頭の中で想定問答をまず反復、そして電話。
診「Zahnarzts Praxis, ****. Gruess Gott」(****歯科診療所です。こんにちは。)
僕「Gruess Gott. Ich bin Lee, jetzt rufe ich aus Neuendettelsau an. Ich moechte wegen Praxis fragen.」(こんにちは。私はLeeです。今Neuendettelsauから電話してます。診察について伺いたいのですが。)
診「Etwas Schmerz?」(痛みですか?)
僕「Nein... Mein 4 jaehriger Sohn hat sein Zahn abgebrochen.」(いいえ。僕の4才の息子が歯を折りました。)
診「Oh, man...」(あら、なんてこと・・・)
僕「Schmerz ist nicht so stark. Aber, wenn er beisst, hat er etwas Schmerz.」(痛みはそんなに強くないです。でも噛むといくらか痛いです。)
診「Kennen Sie unsere Praxis? Sind Sie schon einmal zu uns gekommen?」(診療所はご存じですか?以前にも来たことありますか?)
僕「Nein... Aber I bin einmal in Lichtnau durchgefahren. Ich weiss, wo es Einkaufzentrum EDEKA gibt.」(無いです・・・。でも、一度Lichtnauは通ったことあります。EDEKAスーパーの場所は分かります。)
診「So, Fahren Sie aus Neuendettelsau nach Lichtnau.Vor EDEKA-Markt, biegen Sie v nach links ab, und fahren Sie ueber die Bruecke. Dann, fahren Sie geradeaus. An Friedhof biegen Sie lnks ab. Und an der zweiten Strasse biegen Sie linken ab. Dann an rechte seite unsere liegt Praxis.」(NeuendettelsauからLichtnauに向かって、EDEKAスーパーの前を左に曲がって下さい。橋を渡って、そのまま進んで、墓地のところを左に曲がって、2番目の道を左に曲がって下さい。そうすると右側に診療所があります。)
僕「......Ja. Ungefaehr nach 30 minuten...(・・・・分かりました・・・大体30分後に・・・)
診「Nach Sprechstunde gehen wir weg. Bitte kommen Sie so schnell moeglich.」(診察時間が終わったら私たちは帰ります。出来るだけ早く来て下さい。」
僕「.....Ja. Danke, Aufwiederhoeren.」(・・・・分かりました・・・・ありがとうございました。また後で。)
・・・・と記憶は最早うろ覚えだが、大体こんな感じの、まるでゲーテ・インスティテュートの語学学校で練習したまんまのような会話をなんとかようようこなす。でもドイツ語で、しかも電話で道順を聞くのはまだすごく難しい。自信が無いなりに、とりあえず左・左・左と行けばいいのね、とメモを手にして時計を見る。18時50分。ドイツでは、仕事終わる時は早いから、慌てて子どもを自動車に乗せて出かける。子ども達の保険は、日本の社会保険の海外療養制度を利用することになるので、凄く面倒くさい申請用の書類も持って行く。
さすがにもう辺りは真っ暗。田舎道なので道路灯も無い中をひた走る。すぐにLichtnauに到着、問題のEDEKAスーパーの前の道を左に曲がり橋を渡る。ここまではスムーズ。Lichtnauは古城街道沿いの古い街なので、橋を渡ると古い街の方に近づいていくことになる。ヨーロッパの古い街は、中心の古い街の外周をぐるっと道が取り囲んでいる。言われたとおり、外周に沿って道なりに進んだ後、最初の大きめの道を左に入る。あれ?村の外に出ちゃった。
仕方がないので引き返すが、それらしい道は左側には見あたらない。橋の所まで戻ってもう一度やりなおす。もっと小さい道を左に入るのかも知れない。橋を渡ってすぐのところを左に入ると、教会があった。教会があればFriedhof墓地もあるかな?ということはこの辺りだろうか?たまたま教会の方から出てきた人がいたので、「FinkenStrasseの歯医者を捜しています。Ich suche den Zahnarzt an Finken Strasse.」と訊いてみる。
「そこの道をそのまま行って、墓地の所を左に行って、それからまた左だよ」と親切に教えてくれる。・・・ん?それって僕が最初に電話で聞いたのと同じだよな・・・。とりあえずもう一度言われたとおり行ってみるが、墓地が見つからない。仕方がないので、また別の小路を左に入ってみると、旧集落の市場広場だった。ここか?でもそれらしいところはない。仕方がないので、そのあたりを通りかかった人をむりやり捕まえて訊いてみるが、そんな通りは知らないと言う。墓地の近くだそうですと訊くと、あー、それならば、右に行って左だよ、と言う。え?右に行くって、今来た道を戻る戻るってことだけど、え?それを左に曲がるってことは、僕はどっかで右に曲がらないといけなかったってこと?そんなこと誰も言ってなかったよ?
驚きながら来た道を戻り、言われた道を左折。ここに来て道を間違えた理由がわかる。実はその道は、古い街に沿ってカーブしていて、そのカーブの道がいわば「道なり」というかいわゆる優先道路になっている。そしてそのカーブのところには、僕がさっき来た道から「まっすぐ」に続いている道がある。あっつまり「そのまま(geradeaus)進む」っていうのは、道なりにそのまま進むんじゃなくて、道なりにカーブしないで「まっすぐ」進めってことだったのね!ということにやっと気付く。勉強になるなぁ・・・。
ほどなく墓地を発見。ようやく診療所を見つける。時は19時20分。子どもを自動車から降ろして慌てて診療所へ。
どうやら先客あったらしく、診療所はまだ閉まっていなかった。ラッキー!
受付で剥がれかけている歯を見せて、「娘の頭とぶつかって、歯が折れました。Mit dem Kopf seiner Schwester hat er gestossen. Danach hat seiner Zahn angebrochen.」と身も蓋もない説明をする。が、別に身も蓋もない説明で問題なかったらしい。
5分ほど待った後、診察室へ。診察椅子に寝かされる。怖がるかと思ったが、一番下の息子は、こう言うところでは結構キモが座っていて、全然動じていない。診察用具の置いてある台の上に手を伸ばして、口腔鏡をとろうとする。僕が「ダメNein!」と言うと、先生も大変子ども扱いの上手い人で、「あ、これ持ってて良いよ」と持たせておく。確かに、何か一つ持ってれば、他の物には手を出さないですからね。危なくない物を持たせておく方が安全です。
先生に、もう一度身も蓋もない状況を説明。ちらっと見てみて、「うん、こういうのよくありますよ」との事。どうせ乳歯だから、1年か2年で生え替わるし、とりあえず、剥がれた部分を取るだけとって、あとは何もしない方が良いだろうということ。何か処置をしようとすると、歯肉の奥の方までやらないといけないのでかえって大変だし、どうしても、飲み食いした時に凍みて痛いというのなら、抜いちゃうしかない、とのこと。
歯茎の表面に麻酔を塗って、剥がれた部分をピンセットでぴっと引き抜く。血がちょっと出るが、まぁ歯が抜けた時よりも少ない程度。息子は意外と神妙におとなしくしている。以前、娘を歯医者に連れて行った時の方が、怖がって大変でした。
血止めのためのガーゼを下唇と歯茎の間に挟んで、あっというまに処置は終わり。
先生が息子に、「日本語でお別れの挨拶はなんていうの」と訊ねると、息子は「バイバイ」とのたまった。一同大笑い。
休日診療だったこともあり、診察費は、必要書類と一緒に後日郵送で請求書を送ってもらうことになる。加入している保険のタイプにもよるが、ドイツではこういうタイプの支払い方法は結構多いらしい。
息子は、子ども用のおまけに針金入りの小さい馬のゴム人形をもらってご満悦。
とりあえず無事に片が付いて、ほっとして帰宅。家では妻と兄姉が心配しながら待っていた。
僕が経過を報告している間、当の息子はもらったおまけを兄姉に見せびらかすのに忙しくしていた。
口の中のガーゼを出させて、うがいをさせてみる。とりあえず凍みもしないらしい。それなら問題なし。よかったよかった。
しかし日本でも行ったことの無い、歯科救急にドイツで行くことになろうとは・・・。
子どもおかげで経験が拡がります・・・。
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